UMB

feature

feature一覧

晋平太 4thアルバム『DIS IS RESPECT』リリース記念 ロングインタビュー
(PART 2)

インタビュアー:大前 至(音楽ライター)


──では、ここからは、アルバムの収録曲、一曲ごとに話を聞かせてください。
1. はじめの一歩
 昔、このタイトルでドキュメンタリーみたいのをYouTubeでやっていて。日本中のいろんなところに行って、いろんな奴にMCバトルで喧嘩を売るっていう狂った企画なんですけど。当時、もう一回なんとかヒップホップで成功したいとか、認知されたいっていう気持ちが凄く強くて。それにはMCバトルが一番だっていうのは分かってたんで。それ以来、「はじめの一歩」っていうのはずっと意識している言葉だし、凄い好きな言葉なんで、今回、初めて曲にしてみました。


──この曲を聴くと、挫折もしてきた上で、今の自分があるっていうのがよく分かるわけだけども。
 “挫折も”というより、挫折しまくりなんで。ホント、ラップを辞めるタイミングなんて何百回もあって。けど、そこで俺が辞めてれば、もう今ここにはいないかったわけで。その時の自分の気持ちっていうか。打ちひしがれている奴とかに頑張れって言っても何の意味も無いんですけど。けど、お前が辞めたら、それでお終いみたいな。俺は悔しいからやるけどねって。この曲はそういう、所信表明です。

──この曲は先ほど名前の出たDJ TAIKIのトラックで。
 タイキさんのトラックはオーセンティックなヒップホップで、ちょっと日本っぽい。俺、MAKI&TAIKIが凄く好きで。マキさん(MAKI THE MAGIC)とは絶対に仕事をしたいなって思って、コンタクトを取ろうとしていた矢先に亡くなっちゃって。タイキさんとマキさんはタイプが真逆なんですけど、音は一緒の部分を感じるっていうか。厳密に言ったら全然違うんでしょうけども、そういうエッセンスが欲しいって時に、やっぱりタイキさんしかいなくて。それが今回、ハマった感じですね。



2. FREE STYLE MIND
 セロリさんにいろいろトラックをもらっていた中で、これがダントツにトラックが美しくて。インストの時点で既に良いんだから、これはもう絶対に名曲じゃないかっていう。だから、トラックを邪魔しない感じで、思っていることを丁寧に、綺麗に音に乗せたら良いかなって。日本語ラップって凄く刺激的じゃないですか。けど、そうじゃなくて、スッと耳に入ってきて、不快にならないというか。言ってることも凄くフリースタイルなんですけど、聴いている人の何かのヒントになれば良いかなみたいな。

──間奏でYOU THE ROCKの声をサンプリングしているのは?
 あれは俺が合うと思って、後からアカペラのデータをセロリさんに送って。“F.R.E.E.”っていうのは使いたかったんですけど、ラフな感じでお願いしたら、返ってきたのがあれで。セロリさんに、ありがとうございますっていう感じですね。

3. CHECK YOUR MIC
 ヒップホップは音楽だしカルチャーなんですけども、俺にとっては“競争”っていう部分は半端じゃなく大きくて。もちろん、“Peace, Unity, Love and Having Fun”(注:アフリカ・バンバータの曲名より)っていうのは大前提としてあるんですけど、俺の中ではその次にバトル。まず全力で一球投げますみたいな。そして、お前もやれよっていう意味で、「MY MIC」じゃなくて、「YOUR MIC」で。あと、ラップを教えたりってすることがあるんですけど、どうしてもマイクを上手く使えてない子が多くて。それは可哀相なんで、マイクの持ち方の作法をサビにしてて。そこから、「今日勝つために生まれてきた」って、フリースタイルの時に俺が吐いた言葉なんですけど。そのくらいの気持ちでバトルはやらないと。本気で自分の人生を切り開きたいと思っているんだったら、その瞬間に全てを出さない限り、何も意味が無いっていうか。あと、この曲でとりあえずよく言われるのが、「晋平太だっていうことは分かった」って(笑)。サビが自分の名前を言うとか、ヒップホップならではじゃないですか。そういう曲を良いタイミングで作りたいとも思ってて。あと、MCバトルの中で、俺の心に残っているフレーズをサンプリングして繋いで、韻踏んでとかしてるんで。スクラッチも含めて、引用元とか全部当てられたら、相当凄いですね。




──さらにこの曲のリミックス・バージョンもあるとか?
 もともと、マイクリレーをやりたくて選んだトラックでもあるんで、MCニガリ、R-指定、般若とリミックスを作って。バトルMCは音源がダサいとか言われるんですけど、俺たちのラップがダサい訳はないし。実はDOTAMAとカルデラビスタとKEN THE 390が足されている7人のバージョンもあって。ミックスがIllcit Tsuboiさんなんですけど、音として聴いても、そこらの日本語ラップには絶対に負けない自信がありますね。(MCバトルの)アンセムになればと思ってます。

4. 末期症状2015 feat R-指定(Creepy Nuts)
 『UMB』のDVD用の特典を作るっていう話になった時に、R-指定と俺で何かやろうって話になって。その時にタイキさんとたまたまよく会ってたんで、(MAKI&TAIKIの)「末期症状」のカバーをさせてくれませんかって言ったら、「良いよ」って。俺がラッパーの中で一番影響を受けているのがZEEBRAで。もともと、ZEEBRAが好きでラップを始めたんで。それと、R-指定の中ではMUMMY-Dさんは特別な存在らしくて。もともとの「マイク握らずにいられぬ衝動(末期症状)いつでも脳みそフリースタイルモード(末期症状)」っていうフックが、「それ俺のこと!」みたいな(笑)。それで作ってみたら、やっぱり良い曲になったっていうか。




──ちなみに晋平太にとって、R-指定はどういう存在?
 俺もずっとMCバトルを引っ張り続けてきたわけですけど、もし、R-指定がいなかったら今みたいな形には絶対になってなかったですね。もちろん、最大のライバルですし、最高にバトルはしたくない相手ですし。8歳くらい違いますけど、年齢とか一切関係なく、日本で一番優れたラッパーだと思ってて。お互い性格も役割も違うし、やれる仕事も違うし。あいつくらいしか行けない仕事は山ほどあるんで、それをやっていって欲しいですね。




5. ラップゴッコ
 ストーリー性が無いとやっぱり乗れないし、お話として分からないとっていうのが、今回アルバムを作ってる間に徐々に分かってきたことで。日本語ラップって分かりにくいじゃないですか。分かりづらいラップも格好良いし、好きなんですけど、話として成立しているものって少なくて。物語だったら、どんな人でも耳で聞ける能力ってあると思うんですよ。あと、登場人物がいたり、一人二役とかっていうのは、完全に落語の影響ですね。

──この曲はアルバムの中でも一番、曲調がアッパーだけども、こういうトラックも合ってるなと。
 トラックは音として気持ち良かったり、高揚したり、体が動いたりって、何らかしらの作用がないと選ばないんですけど。これはふざけた曲にしたくて。ミックスのエンジニアのシミ君(SHIMI)が凄く頑張ってくれて、こういう風になりましたね。

──BUZZER BEATSとは結構長い付き合いになるよね?
 ブサビ(BUZZER BEATS)はもう10年くらい一緒なんで。全てのわがままを聞いてくて、それを実現してくれるエンジニアはブザビのシミ君しかいない。俺の中では良しなんだけども、全体的に考えたらどうなんだろう?とか、音楽としてどうなんだろう?とか、そういうディレクションも含めて一緒にやってくれる。今回のアルバムはトラックもシミ君が選んだものが多いですね。そういうところも重要で。







feature一覧

feature一覧